はまりこむ

旅の流れでインドに行くことになったことは前回書いた。
「イランを目指す!」という大きな目標を胸に日本を発ち、トランジットしたバンコクでは多くの人がインドを語ってくれた。
「インドは好きだけどインド人は好きになれない」
そこに人があってこそ国が存在する。しかし、話を聞いてみると誰もがこのようなことを口にする。この命題はいかなる意味をもつのか。そんなことを考えながら、飛行機はデリーへと向かった。そして、「インド人は手強そうだな」この一つの思いを抱きながら、ついにインドへの第一歩を踏み出した。

インドに着いてみると、会う人がみな、他の人から聞いたインドの話をしてくれた。たくさんのエピソードを聞いたが、全てを要約すると「インド人には気をつけろ」ということらしかった。今まで自分が集めた情報と同じだった。そういうわけでこの話に同意しながら、なぜかはわからぬが、インド人は本当は親しみを持てる人たちなんだろうな、と直感で感じた。アンチな思考をするのが癖だからだとは思うが。

宿や道端で旅行者に会うと、必ずインド人の話で盛り上がった。訪問する人がすべてインドのヒトを特別視している証拠であろう。そして、自らがした一つひとつの経験から「インド人には注意すべきだ」というメッセージが正しいという方向に、議論が流れていくことに気づいた。僕はそんなとき、必ずインド人はこういうところが面白いんだ(素晴らしいんだ)と、無理にでも議論の方向性を変えることで、その議論自体を楽しみ、また、インド人観に関する可能性を探ってみた。

そして10日間が過ぎた。10日間!出会った旅人たちは次の町、次の国を目指し旅立つ。そしてまた新たな旅人がデリーにやってくる。僕はそうした人を迎えていた。毎日いろいろな人からインド人の感想を聞き、それに対して持論を展開するのが楽しかった。
「インド長いんですか」
「いや、きたばっかりだよ」
「あ、そうなんですか。意外だな。これからどこへ行くつもりですか」
「実はインド旅行はあまりするつもりがなくてね。これからパキスタン経由
でイランに行こうと思っているんだ」
「ふ〜ん。ビザとかどうなってるんですか」
「・・・。」
インドに入ったらできるだけ早く出国するために、すぐに情報を集めて先へ進むはずだった。しかし、いつの間にか10日が過ぎ、情報は一つも集まっていなかった。毎日の話が楽しすぎたのだ。

翌日、本屋と有名な安宿で情報収集をした。日本大使館でレコメンレターをもらって、パキスタンとイランの大使館に行けばいいという話であったが、イランビザは発給されないこともあるということだった。写真もお金も必要だし、行くのが面倒だな、と思った。そして目的地イランに辿り着く唯一の行動を怠って、ニューデリーの中心コンノートプレイス周辺でだらだらしてしまった。

昼過ぎ、ネパール大使館のそばを通りかかった。門には「Closed」と書かれていた。暇なのでその立て札をじっと見ていた。すると一人のスロベニア人が後ろから現れ、大声で叫んだ。

「何だと!平日なのにどうしてこの大使館は休みなんだ!俺にはビザが必要なのに!(ふとこちらを見て)お前もそうだろ?!ここまで来たのが無駄足だったな!チクショウ!出直しだ。お前はどこに泊ってんだ?えっ?メインバザール?それなら明日は10時にコンノートプレイスのアメリカンエクスプレスの前で待ち合わせようじゃないか!」
興奮した男は早口でこう言った。そしてインドの暑さを罵る言葉を吐きながら、あっという間に去って行った。

ネパールを旅しようなどとはそれまで思ったこともなかった。
しかし。
翌朝10時。僕はアメックスのオフィス前で彼を待っていた。

イラン行きは保留になった。

.....Continue.....