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ブラッドフォード大学大学院 体験記
(MA in Peace Studies, University of Bradford)
北アイルランドを訪れて
3月27日から4月5日まで、大学主催のスタディツアーで北アイルランドを訪問した。
北アイルランド紛争については存在そのものはなんとなく知っていたが、これまでほとんど意識したことはなかった。後期の選択科目の中に「北アイルランド紛争」が含まれていたが、検討すらせずに選択肢から外した。
アイルランド紛争について興味を持ち始めたのは約一ヶ月ほど前だ。「デモクラシー」の講義のプレゼンの準備をしていたとき、「最も進んだ民主主義国家といわれているイギリスでさえ、国内の紛争をいつまでも解決できずにいる・・・民主主義は本当にいい制度なのか」という一文を目にした。IRAとかシン・フェインとかロイヤリストとか、新聞やニュースなどでこの紛争に関する用語を耳にしたことはあるし、「なぜ、人を殺してはいけないのですか」という元IRAに対抗するテロリストグループの一員で現在日本で牧師をしている人の著作を数年前に読んだことはあるが、対立の構造や現状については無知なままだった。アイルランドで一体なにが起こっているのだろう――そう思っていたとき、タイミングよく大学からメールが入った。「北アイルランドツアーに空きがでましたよ」。
ブラッドフォードで平和学を学び始めてからイラク戦争やアフガニスタンについてはもちろんのこと、ルワンダやコンゴなどのアフリカ諸国やラテンアメリカで続く不安定な状況についてはいろいろな機会において意識させられ続けてきたが、アイルランド紛争についてはほとんど考える機会を持たなかった。北アイルランドツアーに参加することで紛争をより身近なものとして意識したいと思った。
アイルランドで見てきたもの、学んだものについては一日でまとめられるようなものではないので、今回得た知識をもとにさらに本を読んで自分なりの見解を持ちたいと思う(サイトにも載せる予定です)。渡英して半年以上過ぎてもまだ英語の理解力は十分ではないし、今回はさらにアイルランド訛りが加わって、話を聞いても理解が難しかったことも多かったが、毎日数人から体験や考え方を聞いたり、他の学生と話をすることによって、アイルランド紛争について多くを感じることができた。
正直、カトリックとプロテスタントの違いはまだよく分からないし、両者がこの地で争う理由をいくつか聞いたけれども、納得できなかった。グレートブリテン島やアイルランド共和国と同じように車に乗っているとのどかな田園風景が広がり、羊が草を食んでいる。首都には世界的に有名な企業がオフィスを構え、スーツに身を包んだビジネスマンが颯爽と歩いている。しかし、そこには長らく続く差別やお互いに対する偏見が消えないばかりか、カトリックとプロテスタントが接する機会すらないという現状があるらしい(在ベルファスト英国軍の資料によると68%の人は対立する側の人々と生まれてからまともに会話をしたことがない)。
カトリックとプロテスタントの間には両者を大きく隔てる精神的な壁がある。他方に関する正確な情報をほとんどの人は得ることができない。そして、この精神的な壁をさらに強固にするものが存在する。それは「平和の壁(Peace
Wall)」と呼ばれる。高さ数メートルあるこの壁によって、人々は他方の地域と完全に隔離される。「この壁のお陰で安心して暮らせるようになった」という意見も聞いたけれども、この壁によって対立感情は高まることはあっても消えることはないと感じた。見えない「向こう側」は恐怖の対象にはなりえても、共存の対象にはなり得ない。
壁の「向こう側」にも「こちら側」にも行ける僕らにとって、どちらか一方の感情や状態を正確に把握するのは難しい。キリスト教やイギリスの歴史について少ししか知識を持っていない僕にとって、他地域のイギリス人と同じように会社や学校やパブに行く北アイルランドの人々が、どうしていつまでも争いの火種を消せないのか理解することはさらにに難しかった。
たったの10日で一気に知識を吸収したけれども、「北アイルランドに対して僕らがなにをできるか」という問いに対する答えを一つも発見することはできなかった。知識が増えることによって、さらに分からなくなったと言うほうが正確かもしれない。
北アイルランドの人たちが必要とするものが何であるのか、それはよくわからない。しかし、必要としないものはなんとなく分かる。それは「平和の壁」だ。
(このツアーにはヨーロッパ人学生を中心に30名が参加。10日間寝食を共にしたことで、今までは見えなかった彼らの素顔も見ることができた。アイルランドに関する話題とともに、このツアーで知ったこと(食事・ゲーム・宗教など)もまとめたいと思います)
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