ユーラシア大陸横断(酒の旅)
NASTAROVIA

1Lビール

列車の遅れもあり、ハンブルグに着いたときは夜9時を廻っていた。
急いで宿を探し、食堂に走った。高給そうなホテル付属のレストランばかりだったが、駅前に一軒、ドネルケバブとフランクフルトを売る店を見つけた。
値段も手頃そうなので、早速、店に入った。

ドイツということで30cmもありそうなソーセージを注文した。そしてヨーロッパにいる間に何度か食べたドネルケバブを、そこでも頼んだ。
そして、もちろん、ビールだ。ハンブルグに来る列車の中でも、地元のおっちゃんから缶ビールをもらったが、やはりこのビールで有名な国で、生ビールを飲みたいと思った。
ビールの名前は確か、マッシュビールだと思った。大小2種類のジョッキがあるとボードに表示があり、迷わず「大」を頼んだ。

屋外にあるテーブルに腰掛け、ケバブを食べ始めた。やがて威勢のいい掛け声とともに、背後からウェイターが現れた。
ものすごい勢いでジョッキをテーブルに置いた。安物のテーブルが壊れてしまいそうな勢いだった。今まで見たことのないぐらいの大きなジョッキが、そこにあった。
他の欧州諸国と同じように、飲み口に量を示した水平線が書かれている。なんと、1L(リットル)とあった。。。

分厚いガラス製のジョッキはとても重い。ジョッキだけで1kgはあるのではないだろうか。ビールも約1kgあるので、注ぎたてのジョッキは約2kgもあることになる。ずっしりと腕に来るその重さが、ビールの国にいるという実感を湧かせた。
一口飲み、二口飲む。大きいだけあって、飲み応えがある。しかし、半分ほど飲み終えたとき、ふと思った。
「これは一人で飲むべき量ではないな…」

一人では飲み切れない、というわけではない。
こんなに楽しいジョッキを、一人で飲んでいるのは虚しいと思ったのだ。列車の旅で疲れていたので、軽く食事をしてすぐに宿へと帰るつもりをしていたが、こんなジョッキと出合ったのに一人で飲み干してしまうなんてイケナイことだと感じた。。そこで周りを見回すと、2つ向こうのテーブルに中東系の4人組がケバブを頬張っていた。
4人とも、ビールではなくお茶やヨーグルトドリンクを飲んでいた。イスラム教徒で、飲酒の習慣がないのかも知れない。それでも一応、声をかけた。
「お〜い! 飲まないのか? ドイツだぜ、ここは」

4人は会話を止め、こちらを向いた。
珍しい奴がいるなと思ったのか、彼らはいろいろと質問をしてきた。「どこから来た」「何をしている」「ケバブはどうだ」等等…。彼らはトルコ人と、トルコ系のドイツ人だった。コンピューター関連の仕事でハンブルグにいるとのことだった。
やがて2人がどこかへ去ったかと思うと、しばらくして僕のテーブルのほうに戻ってきた。2人なのに、あの大きなジョッキを3つ持っていた。
僕のジョッキが空になりかけていたので、1杯は僕のものかなと思ったが、手を出すと制止された。「それは俺のだ」
なんだ、トルコ人はケチだなぁなどと思いながら、僕はビールのお代わりを買いにいった。

席に戻ると、目の前に2杯のビールを置いた男がさっきまでいた席を見ながら言った。
「あの2人は、飲まないんだ。かわいそうなやつらだろ?」
そして乾杯もせずにジョッキに入った液体を一気に胃の中に流し込んだ。すごい速さだった。そして2杯目も彼の勢いは止まらなかった。
あっという間に2杯を飲み干した男は、さらに2杯のビールを注文した。それから約30分の間に、ビールは全てその男の太い腹の中に消えた。ビア樽は、まだまだキャパシティが余っていそうな感じだった。

ビア樽は、飲めば飲むほど挑発的な視線を投げかけて来た。
しかし、僕はトルコには闘いを挑まなかった。

2杯目を飲み終えると、僕は彼らに別れを告げた。

ドネルケバブはトルコ料理です。
ヨーロッパには多くのトルコ人が働いており、ドネルケバブの店をよく見かけることがあります。値段も手頃なので、貧乏旅行をしているとよく行くことになります。そういえば、渋谷などにも数件ありますね。

◆ちなみに、ビール「小」の方は、330mlでした。

 

バー

ジョッキの大きさとトルコ人の飲みっぷりに圧倒されてしまった。
しかし、気分は上々。宿の手前にあったバーに吸い込まれた。

ドイツ語のポップスとダンスミュージックの流れる小さなバーだった。客は全部で8人。カウンター形式の席はほとんど埋まってしまっている。

そのときはハンブルグ在住の人は少なく、ドイツの他の地域から来た人と、外国からの旅行者ばかりだった。グループで来ている人はおらず、みんな、一人で飲みに来ていた。

好きな音楽がかかると歌ったり、踊ったりする人もいる。それぞれが、好きなように、好きなビールを飲んでいる。落ち着いていてとてもいい雰囲気だった。

店主も陽気で感じのよい人だった。
話題の中心となって客に話をふってくれるので、カウンターに座る客が一体となって会話を楽しむことができる。

実は残念ながら、短いドイツ滞在中にとてつもなくうまいビールには出会わなかった。その味や深みに期待していた僕としては、その点残念であった。
しかし、雰囲気のいいバーで、そこにいるみんなが一体となって楽しんでいる状況に触れて、こういう文化が酒をうまくするのだと感心した。その意味で僕は、ドイツがビールの国と呼ばれていることに納得した。

この日の酒量は、いつもに比べて少なかったが、僕は存分に酔った。

 

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